・・・ そういう次第だから、作おんなのお増などは、無上と民子を小面憎がって、何かというと、「民子さんは政夫さんとこへ許り行きたがる、隙さえあれば政夫さんにこびりついている」 などと頻りに云いはやしたらしく、隣のお仙や向うのお浜等までか・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・傍で見ても小面が憎かった。彼は、三人のあとから、山の根の運び出した薪を散り/\に放り出してある畠のところまでついて来た。 三人は仕様がなかった。そこで薪積みを始めた。スパイは、煙草屋でせしめてきた「朝日」を吸って、なか/\去ろうとしない・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ とおっしゃって、孫次郎というあでやかな能面の写真と、雪の小面という可憐な能面の写真と二枚ならべて壁に張りつけて下さったところまでは上出来でございましたが、それから、さらにまた、兄さんのしかめつらの写真をその二枚の能面の写真の間に、ぴた・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
出典:青空文庫