・・・岡田氏はもし事実とすれば、「多分馬の前脚をとってつけたものと思いますが、スペイン速歩とか言う妙技を演じ得る逸足ならば、前脚で物を蹴るくらいの変り芸もするか知れず、それとても湯浅少佐あたりが乗るのでなければ、果して馬自身でやり了せるかどうか、・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・北京にある日本公使館内の一室では、公使館附武官の木村陸軍少佐と、折から官命で内地から視察に来た農商務省技師の山川理学士とが、一つテエブルを囲みながら、一碗の珈琲と一本の葉巻とに忙しさを忘れて、のどかな雑談に耽っていた。早春とは云いながら、大・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・ 三十分の後、中佐は紙巻を啣えながら、やはり同参謀の中村少佐と、村はずれの空地を歩いていた。「第×師団の余興は大成功だね。N閣下は非常に喜んでいられた。」 中村少佐はこう云う間も、カイゼル髭の端をひねっていた。「第×師団の余・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・私はこんなに老いぼれていても少佐だから、私の首を持ってゆけば、あなたは出世ができる。だから殺してください。」と、老人はいいました。 これを聞くと、青年は、あきれた顔をして、「なにをいわれますか。どうして私とあなたとが敵どうしでしょう・・・ 小川未明 「野ばら」
・・・「誰れが来ていたんです?」「少佐。」「何?」二人とも言葉を知らなかった。「マイヨールです。」「何だろう。マイヨールって。」松木と武石とは顔を見合わした。「振い寄ると解釈すりゃ、ダンスでもする奴かな。」 七・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・…… 少佐殿はめかして出て行く。 ところが、おそく、――一時すぎに――帰ってきて、棒切れを折って投げつけるように不機嫌なことがあるのだ。吉原には訳が分らなかった。多分ふられたのだろう。 すると、あくる日も不機嫌なのだ。そして兵卒・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ つぎには、これは築地の、市の施療院でのことですが、その病院では、当番の鈴木、上与那原両海軍軍医少佐以下の沈着なしょちで、火が来るまえに、看護婦たちにたん架をかつがせなどして、すべての患者を裏手のうめ立て地なぞへうつしておいたのですが、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・大尉のほうが少佐に対して無雑作な言語使いでしきりに話しかけていた。少佐は多く黙っていた。その少佐の胸のボタンが一つはとれて一つはとれかかっているのが始終私の気にかかった。 同乗の小学生を注意して見ると、もちろんみんな違った顔であるが、そ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・もうおまえは少佐になってもいいだろう。おまえの部下の叙勲はおまえにまかせる。」 烏の新らしい少佐は、お腹が空いて山から出て来て、十九隻に囲まれて殺された、あの山烏を思い出して、あたらしい泪をこぼしました。「ありがとうございます。就て・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・を出すことにきめたが、新聞社主筆ミシャロフ少佐が、それを禁じた。理由をきくと次のように答えられた。「それは同人雑誌の形式です。ロシアにも以前、革命前にはありましたが、今はありません。芸術は社会のもので、個人のものでありません。同人雑誌は個人・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫