・・・特に就中、詩人の影響されたことは著るしく、独逸のデエメル、イワン・ゴール、仏蘭西のグウルモン、ジャン・コクトオ、ヴァレリイ等、殆んど近代の詩人にして、ニイチェからの思想的、哲学的影響を受けないものは一人もない。 それほどニイチェは、多く・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・元来品行の正邪は本人の性質に由り時の事情に由り教育の方法にも由ることなれども、就中これを不正に導くものは家風に在りと断言して可なり。幼少の時より不整頓不始末なる家風の中に眠食し、厳父は唯厳なるのみにして能く人を叱咤しながら、其一身は則ち醜行・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 一国の文明は、政府の政と人民の政と両ながらその宜を得てたがいに相助くるに非ざれば、進むべからざるものなり。就中、人民の政は思いのほかに有力なるものにして、ややもすれば政府の政をもってこれを制すること能わざるもの多し。たとえば今の人力車・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・て養われ、あるいは学校の教授によって導かれ、あるいは世の有様に誘われ、世俗の空気に暴されて、それ相応に萌芽を出し生長を遂ぐるものなれば、その出来不出来は、その培養たる教育の良否によって定まることなり。就中幼少の時、見習い聞き覚えて習慣となり・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・ 聖人の本意は、後世より測り知るべからざるものとして、しばらくこれを擱き、その聖人の道と称して、数百年も数千年も、儒者のこれを人に教えて、人のこれを信じたる趣をみれば、欠点、はなはだ少なからず。就中、その欠点の著しきものは、孝悌忠信、道・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・一 女子の結婚、就中その他家に嫁したる結婚の後、その家の舅姑に事うるの法如何は古来世論の喋々する所にして、又実際に於ても女同士なる姑と嫁との間に衝突の起るは珍らしからず。仮令い或は表面に衝突せざるも、内心相互に含む所ありて打解けざるは、・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ツルゲーネフの作物、就中『ファーザース・エンド・チルドレン』中のバザーロフなんて男の性格は、今でも頭に染み込んでいる。その他チェルヌイシェーフスキー、ヘルツェン、それから露国の作家じゃないがラッサール、これらはよく読んだものだ。 勿論、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
○昔から名高い恋はいくらもあるがわれは就中八百屋お七の恋に同情を表するのだ。お七の心の中を察すると実にいじらしくていじらしくてたまらん処がある。やさしい可愛らしい彼女の胸の中には天地をもとろかすような情火が常に炎々として燃えて居る。その・・・ 正岡子規 「恋」
・・・ 次に人の目に附いたのは、衝動生活、就中性欲方面の生活を書くことに骨が折ってある事であった。それも西洋の近頃の作品のように色彩の濃いものではない。言わば今まで遠慮し勝ちにしてあった物が、さほど遠慮せずに書いてあるという位に過ぎない。・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・次いで第二部のが出来て、これも多少世間に出ている。就中私の手許から贈遺した本には、正誤表の出来た後、それを添えなかったことはない。書肆富山房も誠意がないではなかったが、買った本は誰が買ったか分からぬので、正誤表の送りようがないと云うことであ・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫