・・・そのほか父はその老躯をたびたびここに運んで、成墾に尽力しました。父は、私が農学を研究していたものだから、私の発展させていくべき仕事の緒口をここに定めておくつもりであり、また私たち兄弟の中に、不幸に遭遇して身動きのできなくなったものができたら・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・成功させるためにきっと尽力する。だからおまえ、本気になってこの五人の中から選ぶんだ。そこに行くと俺たちボヘミヤンは自由なものだ。ともちゃんだって、俺たちの仲間になってくれてる以上はボヘミヤンだ。ねえ。そうだろう。かまわないから選びたまえ。俺・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・某氏の尽力によりようやく午後の三時頃に至って人を頼み得た。 なるべく水の浅い道筋を選ばねばならぬ。それで自分は、天神川の附近から高架線の上を本所停車場に出て、横川に添うて竪川の河岸通を西へ両国に至るべく順序を定めて出発した。雨も止んで来・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・正倉院の門戸を解放して民間篤志家の拝観を許されるようになったのもまた鴎外の尽力であった。この貴重な秘庫を民間奇特者に解放した一事だけでも鴎外のような学術的芸術的理解の深い官界の権勢者を失ったのは芸苑の恨事であった。 鴎外は早くから筆・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・と言って、相川は原の方を見て、「君も引越して来たら、是非吾儕の会の為に尽力してくれ給え」「何卒、原先生にも御話を一つ」と布施は敬意を表して言った。「駄目です」と原は謙遜な調子で、「今相川君にも話したんですが、僕なぞは最早チョン髷の方・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・たとえば、これまで深川の貧民たちのために尽力していた、富田老巡査のごときは、火の危険な街上にしまいまで立ちつくして、みんなを安全な方向ににがし/\したあげく、じぶんはついに焼け死んでしまいました。また、下谷から焼け出された或四十がっこうの一・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・渠は二人の兵士の尽力のもとに、わずかに一盒の飯を得たばかりであった。しかたがない、少し待て。この聯隊の兵が前進してしまったら、軍医をさがして、伴れていってやるから、まず落ち着いておれ。ここからまっすぐに三、四町行くと一棟の洋館がある。その洋・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ また物理学を修めて後各種の実務に従事する人は、物理学は単に机上の学問ではなくて、到る処に活用の途のある学問だという事を忘れず、新しい応用方面の開拓に尽力されたいものである。 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・建碑について尽力した人の重なるものは、その時には既に世を去っていた成島柳北と今日なお健在の富商大倉某らであった事が碑文に言われている。かくの如く堤上の桜花が梅若塚の辺より枕橋に至るまで雲か霞の如く咲きつらなったのは、江戸時代ではなくしてかえ・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ただこの際において心事の機を転ずること緊要にして、そのこれを転ずるの器械は、特に学校をもって有力なるものとするが故に、ことさらに藩地徳望の士君子に求め、その共に尽力して学校を盛にせんことを願うなり。 中津の旧藩にて、上下の士族が互に婚姻・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫