・・・と云ったが、いかにも屈托ない様子で、「あの女中さん、一向けろりとしていたわね」 それが寧ろ不思議らしい調子である。 さっきから黙っていた桃子が頬っぺたに散りかかる髪を払いのけるように火鉢から頭をあげて、「とにかくお兄様は・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ いかにも屈託のない家庭らしい。速記録をよんで、私はいろいろの暗示をうけ面白く感じた。若い娘とその両親とが、公人としてそれぞれの立場から結婚の問題や婦人と職業の問題について睦じく公然と意見を話す時代になって来たのは、社会的に云っても、家・・・ 宮本百合子 「短い感想」
・・・迷いと屈托とに遅滞しているゆえをもって、直ちにその人の人格を卑しめてはいけない。態度の純一のゆえに、直ちにその人の人格を過大視してはいけない。態度の美しさのほかに、なお一つ、戦いの深さによって人を見る視点があるからである。八・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫