・・・ 然るに男尊女卑の習慣は其由来久しく、習慣漸く人の性を成して、今日の婦人中動もすれば自から其権利を忘れて自から屈辱を甘んじ、自から屈辱を忍んで終に自から苦しむ者多し。唯憐む可きのみ。其然る所以は何ぞや。幼少の時より家庭の教訓に教えられ又・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・人民、女性の歴史にとって屈辱のしるしのように強いても握らされた白と赤との日本の旗は、今日、日本の婦人自身の手のなかで握り直されなければならない。旗は、よろこびと幸福とへ向って生活の軌道を切りかえる親切と勇気にみちた信号合図の旗として、かざさ・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・それだけのところに止まるとすれば私たち女自身の屈辱があるばかりだと思う。〔一九四〇年十二月〕 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・定子が生れた時、葉子は自分が木部のような者の子を生むという屈辱に堪えないで、他の男との間に出来た赤児であると母にさえ話した。そのような劇しい憎しみを持っている男の俤を伝えている定子が、無条件に可愛いということがあるだろうか。まして葉子のよう・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・原因は、男の強大な主我主義と肉情によって、アンネットは自分が彼の愛人として人格的に陥りかかっている屈辱の深淵を見透し、自分の健康な自尊心をとりかえさずにいられなくなったのであった。――アンネットが確実に彼のものとなった後、彼は、アンネットの・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・貧乏なばかりに師範の五年間を屈辱の中に過し、それをやっと「向学心」と「学問の光明」のために忍従していよいよ教師となった彼は、「希望と理想と満足とがひとりでに胸をしめ上げて来る」という状態で就任する。ところが「教員生活の最初の下劣さ」として、・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・スクロドフスキー教授の末娘、小さい勝気なマリア・スクロドフスカとして、露帝がポーランド言葉で授業を受けることを禁じている小学校で政府の視学官の前に立たされ、意地悪い屈辱的な質問に一点もたじろがず答えはしたが、その視学官が去ってしまうと、今ま・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・同時に、永年にわたる植民地人民としての屈辱から立って、民族の独立を告げつつある全アジアの人民と婦人の声です。 アメリカやイギリスの各地でも、きょうの三月八日という日には、平和こそ人類がこんにち必要としているものであることを明らかにして、・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・反面から言うと、もし自分が殉死せずにいたら、恐ろしい屈辱を受けるに違いないと心配していたのである。こういう弱みのある長十郎ではあるが、死を怖れる念は微塵もない。それだからどうぞ殿様に殉死を許して戴こうという願望は、何物の障礙をもこうむらずに・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・自分が我を斥けたために相手が勝ち誇ったような顔をすれば、自分はいつも屈辱を感ずる。自分が可哀そうになる。けれどもここで恥じ悲しみ苦しむものは、また自分の我である。我を通して見た所で自分がどうにもならないとともに、我を通さなくとも個性には何の・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫