・・・恐らく学者とか何とか云う階級に属する人なので、完く身なりなどには無頓着なのであろう。「オールマナック・メエカア。正にそれにちがいない。いや僕の考える所では、それさえ甚だ疑問ですね。しかしそんな事は、どうでもよろしい。それより君の特に研究・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・と云う、Dandy の階級に属するような、生活さえもつづけている。が、不思議にも、そう云う生活のあい間には、必ずひとり法華経を読誦する。しかも阿闍梨自身は、少しもそれを矛盾だと思っていないらしい。 現に今日、和泉式部を訪れたのも、験者と・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・「そんならある意味で小作人をあざむいて利益を壟断している地主というものはあれはどの階級に属するのでしょう」「こう言えばああ言うそのお前の癖は悪い癖だぞ。物はもっと考えてから言うがいい。土地を貸し付けてその地代を取るのが何がいつわりだ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・知っていながら哲学や芸術に没頭しているとすれば、彼らは現代から取り残された、過去に属する無能者である。彼らがもし『自分たちは何事もできないから哲学や芸術をいじくっている。どうかそっと邪魔にならない所に自分たちをいさしてくれ』というのなら、そ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・一体歌人にしろ小説家にしろ、すべて文学者といわれる階級に属する人間は無責任なものだ。何を書いても書いたことに責任は負わない。待てよ、これは、何日か君から聞いた議論だったね。A どうだか。B どうだかって、たしかに言ったよ。文芸上の作・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
一 東京もはやここは多摩の里、郡の部に属する内藤新宿の町端に、近頃新開で土の色赤く、日当のいい冠木門から、目のふちほんのりと酔を帯びて、杖を小脇に、つかつかと出た一名の瀟洒たる人物がある。 黒の洋服・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・天象、地気、草木、この時に当って、人事に属する、赤いものと言えば、読者は直ちに田舎娘の姨見舞か、酌婦の道行振を瞳に描かるるであろう。いや、いや、そうでない。 そこに、就中巨大なる杉の根に、揃って、踞っていて、いま一度に立揚ったのであるが・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・なつかしいという形のない心は、お互いのことばによって疎通せらるる場合が多いが、それは尋常の場合に属することであろう。 今省作とおとよとは逢っても口をきかない。お千代が前にいるからというわけでもなく、お互いにすねてるわけでもない。物を言わ・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・沼南と私とは親しい知り合いでなかったにしろ、沼南夫妻の属するU氏の教会と私とは何の交渉がなかったにしろ、良心が働いたなら神の名を以てする罪の裁きを受ける日にノメノメ恥を包んで私の前へは出て来られないはずであるのを、サモ天地に恥じない公明正大・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・元来これは絵画の領域に属するもので、絵画の上ではあらゆる物象だの、影だのを色彩で以て平たい板の上に塗るので、時間的に事件を語っているものではない。併し、それが最近の色彩派になって来ると、絵画が動くようなところに進んでいると思う。 例えば・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
出典:青空文庫