・・・日陰だ。山吹の青いえだや何かもじゃもじゃしている。さきに行くのは大内だ。大内は夏服の上に黄色な実習服を着て結びを腰にさげてずんずん藪をこいで行く。よくこいで行く。急にけわしい段がある。木につかまれ木は光る。雑木は二本雑木が光る。「じ・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・みの一つだになきぞ悲しきと云って、娘が笠の上に花の咲いた山吹の枝をのせて、鹿皮のむかばきをつけて床几にかけている太田道灌にさし出している絵も見た。この絵は、『少女画報』という雑誌にのっていたと思う。 太田道灌が、あっちからこっちへと武蔵・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・高いところに樫の若葉、要の葉、桜、楓、地面に山吹や野茨が叢り出て緑のァリエーションをつくる。そこへふっさり幹を斜に空から後期印象派風の柳が豊富な葉を垂らし、快晴の午後二時頃人声もしないその小道を行くと、何と云おう――様々な緑、紅緑、黄緑、碧・・・ 宮本百合子 「わが五月」
・・・田舎住なま薪焚きてむせべども躑躅山吹花咲くさかり 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫