・・・中には政治家の半端もあるし、実業家の下積、山師も居たし、真面目に巡査になろうかというのもあった。 そこで、宗吉が当時寝泊りをしていたのは、同じ明神坂の片側長屋の一軒で、ここには食うや食わずの医学生あがりの、松田と云うのが夫婦で居た。・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ 彼等は小説家というものが宗教家や教育家や政治家や山師にも劣らぬ大嘘つきであることを、ややもすれば忘れるのである。いくたびか一杯くわされて苦汁をなめながら、なおかつ小説家というものは実際の話しか書かぬ人間だと、思いがちなのである。髭を生・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・企図した人は、すべて無慙に失敗し、少し飛び上りそうになっては墜落し、世人には山師のように言われ、まるでダヴィンチの飛行機の如く嘲笑せられているのです。けれども自分は信じています。真の近代芸術は、いつの日か一群の天才たちに依って必ず立派に創成・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・まかり間違うと、鼻持ちならぬキザな虚栄の詠歎に似るおそれもあり、または、呆れるばかりに図々しい面の皮千枚張りの詭弁、または、淫祠邪教のお筆先、または、ほら吹き山師の救国政治談にさえ堕する危険無しとしない。 それらの不潔な虱と、私の胸の奥・・・ 太宰治 「父」
・・・うですが、私はそのヒットラーの写真を拝見しても、全くの無教養、ほとんどまるで床屋の看板の如く、仁丹の広告の如く、われとわが足音を高くする目的のために長靴の踵にこっそり鉛をつめて歩くたぐいの伍長あがりの山師としか思われず、私は、この事は、大戦・・・ 太宰治 「返事」
・・・水が、音もなく這い、伸びている様を、いま、この目で、見てしまったから、もう、山師は、いやだ。お小説。百篇の傑作を書いたところで、それが、私に於いて、なんだというのだ。私は眠っていたのではないのだよ。そうだ。おまえの言葉を借りて言えば、私は、・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・世の中には古社寺保存の名目の下に、古社寺の建築を修繕するのではなく、かえってこれを破壊もしくは俗化する山師があるように、邦楽の改良進歩を企てて、かえって邦楽の真生命を殺してしまう熱心家のある事を考え出す。しかし先生はもうそれらをば余儀ない事・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・「なんでもかんでも、おれは山師張るときめた。」 するとも一人の白い笠をかぶった、せいの高いおじいさんが言いました。「やめろって言ったらやめるもんだ。そんなに肥料うんと入れて、藁はとれるたって、実は一粒もとれるもんでない。」「・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・農民四、五、六 登場農民四「じゃ、この野郎、山師たがりだじゃぃ。まるきり稲枯れでしまたな。」農民五「ひでやづだじゃ。春から汗水たらすて、ようやぐ物にすたの、二百刈りづもの、まるっきり枯らしてしまったな。」・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・東大でも、伊藤ハンニまがいの山師がでているし、きわめてエクセントリックな性格と生活態度の女子学生が大阪の実家で弟に殺されたという事件があったし、法科の学生が教室でエロティックな映画を公開したというおどろくべきこともありました。女子の学校など・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫