・・・ 土庇が出ている茶がかった客間なので、庭の梧桐の太い根元にその根をからめて咲き出ている山茶花の花や葉のあたりを暖かく照らしている陽は、座敷の奥まで入って来ない。多喜子は、座布団の上で洋装の膝をやや崩して坐りながら、細い結婚指輪だけはまっ・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ 住宅地には生垣が多い。山茶花を垣にしたところもある。栗の葉が濃く色づいて広い初冬の青空の下に益々乾いて行く。低いところで白や紅の山茶花が咲き散る。落葉焚の煙が見とおしの利く桜並木の通りにも上った。緩やかな勾配を石川は住宅地の奥の方・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・もう温室の外にはあらゆる花と云う花がなくなっている頃の事である。山茶花も茶の花もない頃の事である。 サフランにも種類が多いと云うことは、これもいつやら何かで読んだが、私の見たサフランはひどく遅く咲く花である。しかし極端は相接触する。ひど・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫