・・・あまの岩戸を開けるような恰好して、うむと力こめたら、硝子戸はがらがらがら大きな音たてて一間以上も滑走し、男爵は力あまって醜く泳いだ。あやうく踏みとどまり、冷汗三斗の思いでこそこそ店内に逃げ込んだ。ひどいほこりであった。六、七脚の椅子も、三つ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・ 記紀にはないが、天手力男命が、引き明けた岩戸を取って投げたのが、虚空はるかにけし飛んでそれが現在の戸隠山になったという話も、やはり火山爆発という現象を夢にも知らない人の国には到底成立しにくい説話である。 誤解を防ぐために一言してお・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・天照という女酋長が、出来上ることをたのしみにして織っていた機の上に弟でありまた良人であって乱暴もののスサノオが馬の生皮をぶっつけて、それを台なしにしてしまったのを怒って、天の岩戸――洞窟にかくれた話がつたえられている。天照大神の岩戸がくれは・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・それをとりまいて見物している神々が笑いどよめいた声に誘われて、好奇心を動かされた女酋長がちょいと岩戸を隙かしたところを、手力男命が岩を取り除けて連れ出したという物語である。これは天照大神が女の酋長であったと同時に、その氏族の中では機も織り、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫