・・・ 岩手山は予期以上に立派な愉快な火山である。四辺の温和な山川の中に神代の巨人のごとく伝説の英雄のごとく立ちはだかっている。富士が女性ならばこれは男性である。苦味もあれば渋味もある。誠に天晴な大和男児の姿である。この美しい姿を眺めながら妙・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ ずうっと昔、岩手山が、何べんも噴火しました。その灰でそこらはすっかり埋まりました。このまっ黒な巨きな巌も、やっぱり山からはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのだそうです。 噴火がやっとしずまると、野原や丘には、穂のある草や穂のな・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・僕はもう丁度こっちへ来ないといけなかったもんだからホウと一つ叫んで岩手山の頂上からはなれてしまったんだ。どうだ面白いだろう。」「面白いな。ホウ。」と耕一が答えました。「又三郎さん。お前はまだここらに居るのか。」一郎がたずねました。・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
出典:青空文庫