・・・ 清水で下車して研究所の仲間と一緒になり、新聞で真先に紹介された岸壁破壊の跡を見に行った。途中ところどころ家の柱のゆがんだのや壁の落ちたのが眼についた。木造二階家の玄関だけを石造にしたようなのが、木造部は平気であるのに、それにただそっと・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・これはたぶん横浜岸壁あたりで訣別の色テープの束の美しさを見て来てから考えたものらしい。「自分の知人A、B、Cの三人が同じ市の同じ町に住まっている事を、年賀状をより分けてみて始めて気がつく。しかしA、B、C相互になんらの交渉もない赤の他人・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・馬糞がごろた石の間にある。岸壁へ出て、半分倉庫みたいな半分事務所のような商船組合の前で荷馬車がとまった。目の前に、古びた貨物船が繋留されている。それが我等を日本へつれてゆく天草丸だった。 そこからは、入りくんだ海の面と、そのむこうに細か・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫