・・・沖はよく和ぎて漣の皺もなく島山の黒き影に囲まれてその寂なるは深山の湖水かとも思わるるばかり、足もとまで月影澄み遠浅の砂白く水底に光れり。磯高く曳き上げし舟の中にお絹お常は浴衣を脱ぎすてて心地よげに水を踏み、ほんに砂粒まで数えらるるようなと、・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・「島山鳴動して猛火は炎々と右の火穴より噴き出だし火石を天空に吹きあげ、息をだにつく隙間もなく火石は島中へ降りそそぎ申し候。大石の雨も降りしきるなり。大なる石は虚空より唸りの風音をたて隕石のごとく速かに落下し来り直ちに男女を打ちひしぎ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・たとえば場面が一転して、海上から見た島山の美しい景色が映写された瞬間にわれわれの頭には「どこだろう」という疑問が浮かぶ。ところがこれに対する説明の録音は気取った調子で「千島にも春は来ました」とそれっきりである。千島の何島のどの部分の海岸をど・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫