歳晩のある暮方、自分は友人の批評家と二人で、所謂腰弁街道の、裸になった並樹の柳の下を、神田橋の方へ歩いていた。自分たちの左右には、昔、島崎藤村が「もっと頭をあげて歩け」と慷慨した、下級官吏らしい人々が、まだ漂っている黄昏の・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・樋口一葉 にごりえ、たけくらべ有島武郎 宣言島崎藤村 春、藤村詩集野上弥生子 真知子谷崎潤一郎 春琴抄倉田百三 愛と認識との出発、父の心配 倉田百三 「学生と生活」
・・・ ブルジョア文学になると、もっと農民を、ママ子扱いにしている。島崎藤村の「千曲川のスケッチ」その他に、部分的にちょい/\現れているのと、長塚節の、農民文学を論じる時にはだれにでも必ずひっぱりだされる唯一の「土」以外には、ほとんど見つから・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ 島崎藤村については、その渡仏中のことを除いては、いまだ、戦争を作品の中に取扱っているのを知らない。しかし、日露戦争の勃発当時にあって、長編「破戒」の稿を起すにあたって、従軍したつもりで作品に力を打ちこむと云われたと伝えられる。この一事・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・六、七年まえのことでございますが、当時、信濃の山々、奥深くにたてこもって、創作三昧、しずかに一日一日を生きて居られた藤村、島崎先生から、百枚ちかくの約束の玉稿、ぜひともいただいて来るよう、まして此のたびは他の雑誌社に奪われる危険もあり、如才・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・今ニ見ヨ、ナド匕首ノゾカセタル態ノケチナ仇討チ精進、馬鹿、投ゲ捨テヨ。島崎藤村。島木健作。出稼人根性ヤメヨ。袋カツイデ見事ニ帰郷。被告タル酷烈ノ自意識ダマスナ。ワレコソ苦悩者。刺青カクシタ聖僧。オ辞儀サセタイ校長サン。「話」編輯長。勝チタイ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・のかけごえのみ盛大の、里見、島崎などの姓名によりて代表せられる老作家たちの剣術先生的硬直を避けた。キリストの卑屈を得たく修業した。 聖書一巻によりて、日本の文学史は、かつてなき程の鮮明さをもて、はっきりと二分されている。マタイ伝二十・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ この歌は滝の勢を詠みたるものにて、言葉にては「怒りたる」が主眼なり。さるを第三句に主眼を置きしゆえ結末弱くなりて振わず。「怒り落つる滝」などと結ぶが善し。島崎土夫主の軍人の中にあるに妹が手にかはる甲の袖まくら寝・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 一方では、前年ヴェノスアイレスの国際ペンクラブ大会に日本代表として出席した島崎藤村が、大会の反ファッシズムに高まった雰囲気から、彼独特の用心ぶかさで日本の立場を守ってかえって来て、日本ペンクラブの創立に着手しはじめている時であった。ま・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ブェノスアイレスの第十四回国際ペンクラブ大会へ出席した島崎藤村が、この大会の世界ファシズムに反対する決議や世界平和と文化を守る決議に当惑して、日本の文学者として何一つ責任ある発言をさけてかえってきたことは、当時の日本の状態をあからさまに語っ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
出典:青空文庫