・・・おれの島流しも同じ事じゃ。十方に遍満した俊寛どもが、皆ただ一人流されたように、泣きつ喚きつしていると思えば、涙の中にも笑わずにはいられぬ。有王。三界一心と知った上は、何よりもまず笑う事を学べ。笑う事を学ぶためには、まず増長慢を捨てねばならぬ・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・冬になると、北海道の奥地にいる労働者は島流しにされた俊寛のように、せめて内地の陸の見えるところへまでゞも行きたいと、海のある小樽、函館へ出てくるのだ。もう一度チヤツプリンを引き合いに出すが、「黄金狂」で、チヤツプリンは片方の靴を燃やしてしま・・・ 小林多喜二 「北海道の「俊寛」」
・・・なら、わしも定めし島流し、硯の海の波風に、命の筆の水馴竿、折れてたよりも荒磯の、道理引つ込む無理の世は、今もむかしの夢のあと、たづねて見やれ思ひ寝の、手枕寒し置炬燵。とやらかした。小走りの下駄の音。がらりと今度こそ格子が明いた。お妾は抜・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫