・・・ 冬でも、この岩穴の中に越年する、いわつばめがすんでいました。ひらひらと、青い空をかすめて、右に、左に、飛んでいたが、やがて、風に舞って落ちてきた木の葉のように、しんぱくの枝にきて止まりました。「雪が近づきましたよ。西の空が火のよう・・・ 小川未明 「しんぱくの話」
・・・それでかれは、岩穴の出口のところに大きい頭を置いておきまして、深くものを思うておりますると、ヤマメがちょいとその岩の下に寄って来る、と突如ぱくりと大きな口をあけてそれを食べる、遠くまで追いかけて行くという事はからだが重くてとても出来ない、そ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・運動場もテニスコートのくらいでしたが、すぐうしろは栗の木のあるきれいな草の山でしたし、運動場のすみにはごぼごぼつめたい水を噴く岩穴もあったのです。 さわやかな九月一日の朝でした。青ぞらで風がどうと鳴り、日光は運動場いっぱいでした。黒い雪・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
出典:青空文庫