・・・と大友は酌を促がして、黙って飲んでいると、隣室に居る川村という富豪の子息が、酔った勢いで、散歩に出かけようと誘うので、大友はお正を連れ、川村は女中三人ばかりを引率して宿を出た。川村の組は勝手にふざけ散らして先へ行く、大友とお正は相並んで静か・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・少年時代には藩兵として東京に出ていたが、後に南画を川村雨谷に学んで春田と号した。私が物心ついてからの春田は、ほとんどいつ行っても絵をかいているか書を習っていた。かきながら楊枝を縦に口の中へ立てたのをかむ癖があった。当時のいわゆる文人墨客の群・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・「おい、おい、階下にいる警察の人に、川村検挙りましたかって、聞いて来い」 昂奮すると猶のこと、頭部の傷が痛んで来た。医者へもゆけず、ぐるぐるにおしまいた繃帯に血が滲み出ているのが、黒い塀を越して来る外光に映し出されて、いやに眼頭のと・・・ 徳永直 「眼」
・・・甘いものといえば、いつかたべた京都の「川村」の栗ようかんのおいしかったことは未だに忘れません。 服装 洋服は形がいろいろあって、それが着る人の性格を現わせるから好きです。気に入った洋装をしてみたいと思いますけれ・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・この作品は川村花菱氏を通じ伊原青々園の『歌舞伎』にのせられた。 一九一一年。名古屋の或る素人劇団によって「穴」が上演された。その頃学校を休んでは、大入場に入ってよく芝居を見る。以前にはかなり勤勉な学生であったが、落第して以来、勉強する気・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫