・・・たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に引き出された。「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以て・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・片手でテーブルの上に出してある巡邏表のケイ紙に印を押しながら、看守に小声で何か云っている。顔の寸法も靴の寸法も長い看守は首を下げたまま、それに答えている。「ハ。一名です。……承知しました。ハ」 金モールが出て行くと、看守は物懶そうな・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 十日ほど経って、王様は国を巡邏されて、どこもかしこも、自分と同じ者ばかりで、もう一言の悪口も聞かれないのに、すっかり満足させられて、思わず王笏を振りあげながら、万歳! と叫ばれた。そして、彼は、もう世の中のあらゆる不幸を忘れてしまった・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・そして、バッキンガム宮殿の鉄柵に沿って今もカーキ色服に白ベルトの衛兵が靴の底をコンクリートに叩きつけつつ自働人形的巡邏を続けているであろう。になった銃の筒口が聖ジェームス公園の緑を青く照りかえして右! 左! 右! 左! オックスフォ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫