・・・「申した通り、此事は此事、左京一分の事。我等一党の事とは別の事にござる。」「と云わるるは。扨は何処までも物惜みなされて、見す見す一党の利になることをば、御一分の意地によって、丹下右膳が申す旨、御用い無いとかッ。」 目の色は変った・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 五日ほど経った早朝、鶴は、突如、京都市左京区の某商会にあらわれ、かつて戦友だったとかいう北川という社員に面会を求め、二人で京都のまちを歩き、鶴は軽快に古着屋ののれんをくぐり、身につけていたジャンパー、ワイシャツ、セーター、ズボン、冗談・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ 光尚はたびたび家中のおもだったものの家へ遊びに往くことがあったが、阿部一族を討ちにやった二十一日の日には、松野左京の屋敷へ払暁から出かけた。 館のあるお花畠からは、山崎はすぐ向うになっているので、光尚が館を出るとき、阿部の屋敷・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫