・・・ チエホフの言葉 チエホフはその手記の中に男女の差別を論じている。――「女は年をとると共に、益々女の事に従うものであり、男は年をとると共に、益々女の事から離れるものである。」 しかしこのチエホフの言葉は男女とも年をと・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・しかし父はどう云う訣か、全然この差別を無視している。……「殺された蟻は死んでしまったのさ。」「殺されたのは殺されただけじゃないの?」「殺されたのも死んだのも同じことさ。」「だって殺されたのは殺されたって云うもの。」「云っ・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ なおこの土地に住んでいる人の中にも、永く住んでいる人、きわめて短い人、勤勉であった人、勤勉であることのできなかった人等の差別があるわけですが、それらを多少斟酌して、この際私からお礼をするつもりでいます。ただし、いったんこの土地を共有し・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・夫婦親子の関係も同じ理由で、そこに争われない差別があるであろう。とくに夫婦の関係などは最も顕著な相違がありはすまいか。夫婦の者が深くあいたよって互いに懐しく思う精神のほとんど無意識の間にも、いつも生き生きとして動いているということは、処世上・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・ 少しも眠れなかったごとく思われたけれど、一睡の夢の間にも、豪雨の音声におびえていたのだから、もとより夢か現かの差別は判らないのである。外は明るくなって夜は明けて来たけれど、雨は夜の明けたに何の関係も無いごとく降り続いている。夜を降り通・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・……どっちだかそれは解らんが、とにかく相互の熱情熱愛に人畜の差別を撥無して、渾然として一如となる、」とあるはこの瞬間の心持をいったもんだ。 この犬が或る日、二葉亭が出勤した留守中、お客が来て格子を排けた途端に飛出し、何処へか逃げてしまっ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 太陽は、だれに対しても差別なく、いつでも、喜んで話し相手になったからであります。ちょうどこのとき、太陽は、ちょろちょろと、白い煙をあげている煙突に向かって、「このごろは、なかなかお忙しいようだが、おもしろいことがありますか。」と、・・・ 小川未明 「煙突と柳」
・・・けれど、これしも空想的社会主義から科学的社会主義にいれるものとして価値を差別せんとするに対しては、我等は見界を異にせざるを得ないであろう。 所謂、空想的社会主義と、科学的社会主義との相違は、単に、その手段、方法の問題たるにとどまらず、其・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ 誰彼の差別も容赦もあらあらしく、老若男女入りみだれて、言い勝ちに、出任せ放題の悪口をわめき散らし、まるで一年中の悪口雑言の限りを、この一晩に尽したかのような騒ぎであった。 如何に罵られても、この夜ばかりは恨みにきかず、立ちどころに・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・労働者、農民の若者を××に引きずりこんで、誰れ彼れの差別なく同じ××を着せる。人間を一ツの最も使いいゝ型にはめこんでしまおうとする。そうして、労働者農民の群れは、鉄砲をかついで変装行列のような行列をやりだす。――これは、帝国主義ブルジョアジ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
出典:青空文庫