・・・果して、弟は小間物屋の二階座敷におげんと差向いで、養生園というところへ行ってきたことを言い出した。江戸川の終点まで電車で乗って行くだけでもなかなか遠かったと話した。「それは御苦労さま。ゆうべもお前は遅くまで起きて俺の側に附いていてくれた・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・芝居のない日には、朝から晩まで差向いで楽む。 折々極親しい友達を呼んで来る。内証の宴会をする。それがまた愉快である。どうかすると盛んな酒盛になる。ドリスが色々な思附きをして興を添えてくれる。ドリスが端倪すべからず、涸渇することのない生活・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・それを聞く嬉しさ、身も浮くばかりに思う傍から、何奴かがそれを打ち消す、平田はいよいよ出発したがと、信切な西宮がいつか自分と差向いになッて慰めてくれる。音信も出来ないはずの音信が来て、初めから終いまで自分を思ッてくれることが書いてあッて、必ず・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫