・・・まるいのは市村の麦わら帽子、細長いのは中塚の浴衣であった。黒いものは谷の底からなお上へのぼって馬の背のように空をかぎる。その中で頭の上の遠くに、菱の花びらの半ばをとがったほうを上にしておいたような、貝塚から出る黒曜石の鏃のような形をしたのが・・・ 芥川竜之介 「槍が岳に登った記」
・・・ 丹羽文雄、川端康成、市村羽左衛門、そのほか。私には、かぜ一つひいてさえ気にかかる。 追記。本誌連載中、同郷の友たる今官一君の「海鴎の章。」を読み、その快文章、私の胸でさえ躍らされた。このみごとなる文章の行く先々を見つめ居る者、・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 京子は真面目にそんな事を云った。 二人は芝居の話、此の頃の「流行」の話をあれから此れへと話しつづけだ。 京子は市村座の様な芝居がすきだと云って、 ねえまあ考えて御覧なさい、 丸の内にはない花道がありますよ。 い・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・翌月市村座で初演。「嬰児殺し」有楽座で初演。 一九二二年。「女親」帝劇に於て初演。大倉喜八郎一夜帝劇を買切りし際、「女親」の一部を改めて上演せしことを知り、劇作家協会と共に立ってその非を鳴らし、ついに帝劇を謝罪せしむ。シュニツレル選集を・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・竜池は中村、市村、森田の三座に見物に往く毎に、名題役者を茶屋に呼んで杯を取らせた。妓楼は深川、吉原を始とし、品川へも内藤新宿へも往った。深川での相手は山本の勘八と云う老妓であった。吉原では久喜万字屋の明石と云うお職であった。 竜池が遊ぶ・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫