・・・「山に登らせたまひしより、明けても暮れても床しさは心を砕きつれども、貴き道人となしたてまつる嬉しやと思ひしに、内裏の交りをし、紫甲青甲に衣の色をかへ、御布施の物とりたまひ候ほどの、名聞利養の聖人となりそこね給ふ口惜さよ。夢の夜に同じ迷ひ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ その時、大学生の青木が、布施という友達と一緒に、この茶店へ入って来た。「やあ」という声は双方から一緒に出た。相川の周囲は遽然賑かに成った。「原君、御紹介しましょう」と相川は青木の方を指して、「青木君――大学の英文科に居られる」・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・偽証罪として起訴された石川、金の二人の被告を加えた十一名と、自由法曹団の弁護人たちが、七十歳の布施辰治を先頭として、はげしく検事の取調べの不当を非難した第一日の公判廷で、竹内被告の弁護人鍛冶だけが「個々の被告の人権を尊重し、被告個人の特殊性・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・準備委員会はすぐ抗議団として、弁護士布施辰治、司会者等を築地署へ抗議のために送った。高等主任に会い、折から居合わせた警視庁の高等係とも掛け合ったが、彼等は何と卑劣でしょう。自分等が一旦法律に従って許可した余興だけさえ、もう許可はとり消したの・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
出典:青空文庫