・・・帆檣に吊った彫花の籠には、緑色の鸚鵡が賢そうに、王生と少女とを見下している。………… × × ×編輯者 それは蛇足です。折角の読者の感興をぶち壊すようなものじゃありませんか? ・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・その上に高い帆柱のあるのが、云うまでもない迎いの船じゃ。おれもその船を見た時には、さすがに心が躍るような気がした。少将や康頼はおれより先に、もう船の側へ駈けつけていたが、この喜びようも一通りではない。現にあの琉球人なぞは、二人とも毒蛇に噛ま・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・紅毛人の水夫が二人、檣の下に賽を転がしている。そのうちに勝負の争いを生じ、一人の水夫は飛び立つが早いか、もう一人の水夫の横腹へずぶりとナイフを突き立ててしまう。大勢の水夫は二人のまわりへ四方八方から集まって来る。 6 仰・・・ 芥川竜之介 「誘惑」
・・・通りの海添いに立って見ると、真青な海の上に軍艦だの商船だのが一ぱいならんでいて、煙突から煙の出ているのや、檣から檣へ万国旗をかけわたしたのやがあって、眼がいたいように綺麗でした。僕はよく岸に立ってその景色を見渡して、家に帰ると、覚えているだ・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・ と半ば呟き呟き、颯と巻袖の笏を上げつつ、とこう、石の鳥居の彼方なる、高き帆柱のごとき旗棹の空を仰ぎながら、カタリカタリと足駄を踏んで、斜めに木の鳥居に近づくと、や! 鼻の提灯、真赤な猿の面、飴屋一軒、犬も居らぬに、杢若が明かに店を張っ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ああ今頃は清軍の地雷火を犬が嗅ぎつけて前足で掘出しているわの、あれ、見さい、軍艦の帆柱へ鷹が留った、めでたいと、何とその戦に支那へ行っておいでなさるお方々の、親子でも奥様でも夢にも解らぬことを手に取るように知っていたという吹聴ではございませ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ この時檣のかなたに立つ人あり、月を背にして立てばその顔は知り難し。突然こなたに向きて、しからば問いまいらせん、愛の盗人もし何の苦悩をも自ら覚えで浮世を歌い暮らさばいかに、これも何かの報酬あるべきか。 二郎は高く笑いてわが顔をながめ・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・がめ祀っているもので、霊顕すこぶるあらたかの由、湖上往来の舟がこの廟前を過ぐる時には、舟子ども必ず礼拝し、廟の傍の林には数百の烏が棲息していて、舟を見つけると一斉に飛び立ち、唖々とやかましく噪いで舟の帆柱に戯れ舞い、舟子どもは之を王の使いの・・・ 太宰治 「竹青」
・・・の甍、灼爛と落日に燃え、さらに眼を転ずれば、君山、玉鏡に可憐一点の翠黛を描いて湘君の俤をしのばしめ、黒衣の新夫婦は唖々と鳴きかわして先になり後になり憂えず惑わず懼れず心のままに飛翔して、疲れると帰帆の檣上にならんで止って翼を休め、顔を見合わ・・・ 太宰治 「竹青」
・・・背景には岸近くもやった船の帆柱の林立がある。掛け図には殺されて倒れている人や、ソホの火事場の粗末な絵の見えるのもちょっとした効果がある。ここの場面がいちばん昔の東ロンドンの雰囲気を濃厚に現わしているように思われる。これと、ずっと後に警察で電・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫