・・・官吏の内にても、一等官の如きはもっとも易からざる官職にして、尋常の才徳にては任に堪え難きものなるに、よくその職を奉じて過失もなきは、日本国中稀有の人物にして、その天稟の才徳、生来の教育、ともに第一流なりとて、一等勲章を賜わりて貴き位階を授く・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・もとより農民の婦女子、貧家の女子中、稀に有為の俊才を生じ、偶然にも大に社会を益したることなきにあらざれども、こは千百人中の一にして、はなはだ稀有のことなれば、この稀有の僥倖を目的として他の千百人の後世を誤る、狂気の沙汰に非ずして何ぞや。・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・ 敵に降りてその敵に仕うるの事例は古来稀有にあらず。殊に政府の新陳変更するに当りて、前政府の士人等が自立の資を失い、糊口の為めに新政府に職を奉ずるがごときは、世界古今普通の談にして毫も怪しむに足らず、またその人を非難すべきにあらずといえ・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・そういうときでも、なおその間に十分な同感、納得、評価が可能であるだけの確乎とした生活態度が互の生活に向っても一貫されているということこそ、稀有だろう。自分の生活、友の生活に向ってそれだけ強い意識をもちつづけ得るほどの強靭な人間性というものが・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 私として第一次欧州大戦が終った丁度そのときニューヨークに居合せたことは、稀有な歴史的情景とともに、どっさりのことを考えさせられる機会となった。 武者小路さんが云っている愛というようなものに、疑いを抱いたのもこの時であった。もし人間・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・今から五年前のことで、東京が稀有な大雪に覆われた年の出来ごとである。父がその病床についてから会えない娘の私にあてて書いたのは、一つの英語の詩であった。そこには、娘が年を重ね生活の経験を深めるにつれて、いよいよ思いやりをふかめずにいられなくな・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・ 数学のソーニャ・コレフスカヤ、物理のキュリー夫人、経済のローザ・ルクセンブルクなどは科学の世界へ踏み出した稀有な婦人の天稟の典型であるが、婦人の思想家としてのエレン・ケイなどは、今日の歴史の鏡に映るものとして眺めた場合、現実の客観的な・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ だが、この祖母は、自分の辛酸な閲歴の中から慾心のない親切と人間の生活の智慧に対する信頼とを見つけ出して来た稀有な心の持主であった。ロシアの古い民謡を実にどっさり知っていてそれを上手に唄い、祖父のいない晩の台所での団欒がはじまると、ふだ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・歴史性と才能との関係について稀有な典型を示しつつ彼の六十八年の生涯を終ったのである。〔一九三六年八月〕 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・大臣公卿が七八人、二三月のうちにかき払われて仕舞うことは稀有な出来事と謂うべきである。 これが道長の運命に大きな変化を与えた。 前述の先輩達が順当に長寿したら、道長とてもあの目覚しい栄達は出来なかったであろう。それを、嗣ぐべき人が相・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
出典:青空文庫