・・・そして大多数のプロレタリアは、帝政時代のそれと、あまり異ならぬ不自由な状態にある。もし、ブルジョアとプロレタリアとの間に、はじめから渡るべき橋が絶えていて、プロレタリア自身の内発的な力が、今度の革命をひき起こしていたのならば、その結果は、は・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・物々しい番兵の交代はベルリン名物の一つであったが、実際いかにも帝政下のドイツのシンボルのように花やかでしかもしゃちこばった感じのする日々行事であった。この花やかにしゃちこばった気分がドイツ大学生特にいわゆるコアー学生の常住坐臥を支配している・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・自分は上野の戦争の絵を見る度びに、官軍の冠った紅白の毛甲を美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵の甲を連想する。 銀座の表通りを去って、いわゆる金春の横町を歩み、両側ともに今では古びて薄暗くなった煉瓦造りの長屋を見る・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・へ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を逆転・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・中国も、帝政時代のロシヤも、人民の文化水準は全く低くて、文盲率が非常に高くありました。中国では、日本の侵略に抵抗して、「抗戦救国」というスローガンがあらゆるへんぴな村々の壁にはられました。そして村人たちはゲリラを闘い日本軍の惨虐に耐えました・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・――文盲は勤労者の恥だ―― 大体、革命までロシアは世界で有名な文盲率の高い国だった。帝政ロシアの支配者たちは搾取に反抗されるのがこわくて、勤労者には高い税で政府が儲けることのできる火酒と坊主をあてがってばかりいた。農村、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・今十八歳のコムソモールの心持が帝政時代に十八歳であったものに、果して、わが心のように理解出来るであろうか? わかるばかりでなく、若い彼等のもっている曇らざる率直さ、科学への関心、健康な意志と、骨身について育っている集団性、国際感情などを、自・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・革命博物館には、種々様々の革命的文献の他に帝政時代、政治犯が幽閉されていた城塞牢獄の監房の模型が、当時つかわれた拷問道具、手枷足枷などをつかって出来ている。茶っぽい粗布の獄衣を着せられた活人形がその中で、獣のような抑圧と闘いながら読書してい・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・本館の帝政時代のままの埃及式大装飾の中に、大使はぽつねんと日本の皮膚をちぢめて暮している。事務所は、離れた低い海老茶色の建物で、周囲の雪がいつも凍っている。今日は雪が氷の上に降った。 白いタイル張りの暖炉があって、上に薬罐がのっている。・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ ゴーリキーにしろ、意味なく帝政時代に室内監禁をくったのではない。ウラジーミル大公の食堂に今日一皿二十カペイキのサラダがトマトと胡瓜の色鮮やかに並び、シベリアの奥で苔の採集を仕事としている背中の丸い白い髯の小学者が妻と木彫のテーブルにつ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫