・・・ 修飾や誇張は、その人の思想感情が真に潤沢になり豊富になり、熱情を帯びるに至った際に初めて借りるべき一手法である。何等内部的の努力なしに、文章上の彫琢をことゝするのは悪戯であるといってよい。 そこで、余はそういう人々に向って、次のよ・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果からある程度まで確かめられたので、事柄は世人の眼に一種のロマンチックな色彩を帯びるようになって来た。そして人々はあたかも急に天から異人が降って来たかのように驚異の眼を彼の身辺に集注した。 彼の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・と思ったのは、舞台面の仮想的の床がずっと高くなり、天井がずっと低くなって天地が圧縮され、従って縮小された道具とその前に動く人形との尺度の比例がちょうど適当な比例になっているために、人形のほうが現実性を帯びるとともに人形使いのほうがかえって非・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・しかしこれが往々にして骨董的傾向を帯びる事がある。すなわち当面の問題に多少の関係さえあれば、これが如何に目下の研究に縁が遠くまた如何に古くまた無価値ないしは全然間違ったものでも無差別無批評に列挙するという風の傾向を生じる事もある。この傾向は・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・であるかも知れぬが、また我々も昔のようなロマンチシストでありたいが、周囲の社会組織と内部の科学的精神にもまた相当の権利を持たせなければ順応調節の生活ができにくくなるので、自然ナチュラリスチックの傾向を帯びるべく余儀なくされるのである。けれど・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・そして、文学の作品とそのつくりてである作家とは、明日の可能に向って、最も重大な責任を帯びる立場に立たされている。文学は、今日もう単なる個人の業績の問題ではなくなった。文学が歴史の鏡であるという事実はいよいよ明白である。 一九四七年十・・・ 宮本百合子 「あとがき(『作家と作品』)」
・・・を読んでもよくわかるように、闘争の重大な理論的指導の任務を帯びる。 ソヴェトのプロレタリア作家は、自然発生的な階級的情熱で剣を執り、自然発生的な感銘で塹壕の記録をとるだけでは足りない。赤軍の活動についても、プロレタリア作家は政治的に、文・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・一九三〇年、モスクワの群集中にある一本の女持雨傘は、或る時コーチクの外套ぐらい階級性を帯びるのだ。 歩道の上でかたまってる人影が見え出した。鞣防寒帽子の耳覆いを、赤い頬っぺたの横でフラフラさせた男の子が日本女をつかまえてきいた。 ―・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ 人間の深みの違う点に至ると、殆ど、運命的な色彩を帯びる。近頃、自分の心には、実に深い、種々の懐疑がある。―― 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 極めて特徴的な明治維新のこういう性格は、初期の動乱時代を過ぎるにつれて、支配方針の確立を求めるに当って、保守的な性質を帯びることは当然であった。自由民権の思想は一八八九年憲法が発布されると同時に弾圧を被って、自由党は解散した。憲法発布・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫