・・・棒縞糸織の袷、薄紫の裾廻し、唐繻子の襟を掛て、赤地に白菊の半襟、緋鹿の子の腰巻、朱鷺色の扱帯をきりきりと巻いて、萌黄繻子と緋の板じめ縮緬を打合せの帯、結目を小さく、心を入れないで帯上は赤の菊五郎格子、帯留も赤と紫との打交ぜ、素足に小町下駄を・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・そこがちょうど結び目の帯留の金具を射て、弾丸は外れたらしい。小指のさきほどの打身があった。淡いふすぼりが、媼の手が榊を清水にひたして冷すうちに、ブライツッケルの冷罨法にも合えるごとく、やや青く、薄紫にあせるとともに、乳が銀の露に汗ばんで、濡・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 何々の宮殿下、何々侯爵、何子爵、何……夫人、と目にうつる写真の婦人のどれもどれもが、皆目のさめる様な着物を着て、曲らない様な帯を〆、それをとめている帯留には、お君の家中の財産を投げ出しても求め得られない様な宝石が、惜し気もなくつけられ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・紐は帯留めのお下りであった。あの帯留は母が買って来た。「まあこんな廉いものがあるんだね」そう云って由子の前へ出して見せた。「するのならあげよう」由子が平常にしめているうちに、真中に嵌っていた練物の珠みたいなものが落っこちてしまった。珠みたい・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・紐は帯留めのお下りであった。あの帯留は母が買って来た。「まあこんな廉いものがあるんだね」そう云って由子の前へ出して見せた。「するのならあげよう」由子が平常にしめているうちに、真中に嵌っていた練物の珠みたいなものが落っこちてしまった。珠みたい・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・何時までならいると父が云ったので、私は、黒リボンを帯留めにくくりつけるひまのなかった例の時計を電話機の前の棚のところへ出してのせ、それを眺めながら、だって父様すこし無理よ、十五分のばしてよ。などかけあった。 自働電話を出て、少し行った時・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・今日古い雑誌を見ますと、当時の婦人作家を集めて『文芸倶楽部』が特輯号を出していますが、そのお礼には何を上げたかというと、簪一本とか、半襟一掛とか帯留一本とかいうお礼の仕方をしています。そんな風に婦人の文学的活動は生活を立てて行く社会的な問題・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・ 奥さんは縞お召の羽織の袖を左右から胸の前で掻き合わせ、立ったまま合点合点をしていたが、急に、「あら大変だ、ね、石川さん、あのダイヤの帯留ね、どこへ行っちゃったかしら」 膝を突くなり、がむしゃらに小箪笥の引出しを引くるかえした。・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫