・・・それには羊皮の帽子をかむり、弾丸のケースをさした帯皮を両肩からはすかいに十文字にかけた男が乗っていた。 騎馬の男は、靄に包まれて、はっきりその顔形が見分けられなかった。けれども、プラトオクに頭をくるんだ牛を追う女は、馬が自分の傍を通りぬ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・草は腰の帯革をかくすくらいに長く伸び茂っていた。「見えるぞ、見えるぞ!」 右の踏みならされた細道を進んでいる永井がその時、低声に云った。ロシアの女を引っかけるのに特別な手腕を持っている永井の声はいくらか笑を含んでいた。 栗本は、・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・負傷者が行くと、不自然な笑い方をして、帯皮を輪にしてさげた一人は急いで編上靴を漆喰に鳴らして兵舎の方へ走せて行った。 患者がいなくなるので朝から焚かなかった暖炉は、冷え切っていた。藁布団の上に畳んだ敷布と病衣は、身体に纒われて出来た小皺・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ 二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。 また黒い扉がありました。「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」「どうだ、とるか。」「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。奥に来てい・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・ 大臣の子は決心したように剣をつるした帯革を堅くしめ直しながらうなずきました。 そして二人は霧の中を風よりも早く森の方へ走って行きました。 * 二人はどんどん野原の霧の中を走って行きました。ずうっとうしろの方で、・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・一人の頬の赤いチョッキだけ着た十七ばかりの子どもが、何だかわたくしのらしい雌の山羊の首に帯皮をつけて、はじを持ってわらいながらわたくしに近よって来ました。どうもわたくしのらしいけれども何と云おうと思いながら、わたくしはたちどまりました。する・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫