・・・又戒名は帰命院妙乗日進大姉である。僕はその癖僕の実父の命日や戒名を覚えていない。それは多分十一の僕には命日や戒名を覚えることも誇りの一つだった為であろう。二 僕は一人の姉を持っている。しかしこれは病身ながらも二人の子供の母に・・・ 芥川竜之介 「点鬼簿」
・・・ 私は寝られはいたしません。 帰命頂来! お米が盗んだとしますれば、私はその五百円が紛失したといいまする日に、耳を揃えて頂かされたのでございます。 どんな顔をされまいものでもないと、口惜さは口惜し、憎らしさは憎らし、もうもう掴み・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ この点から考えると、世の一人生観に帰命して何らの疑惑をも感ぜずに行き得る人は幸福である。ましてそれを他人に宣伝するまでになった人はいよいよ幸福である。私にはすべてそれらのものが信ぜられず、あらが見えるように思われてならない。あるものは・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
出典:青空文庫