・・・とか何か云われたので、結局帳消しになってしまったらしい。 大野さんが帰ったあとで湯にはいって、飯を食って、それから十時頃まで、調べ物をした。 二十八日 涼しいから、こう云う日に出なければ出る日はないと思って、八時頃うちを飛び・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・しばらく影を見ませんから、それじゃあそれなりになったかしら。帳消しにはなるまいと思いながら、一日ましに私もちっとは気がかりも薄らぎました。 そういたしますと今度の事、飛んでもない、旦那様、五百円紛失の一件で、前申しました沢井様へ出入の大・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ら日本橋辺へ出て昼飯を食うつもりで出掛けたのであったが、あの地震を体験し下谷の方から吹上げて来る土埃りの臭を嗅いで大火を予想し東照宮の石燈籠のあの象棋倒しを眼前に見ても、それでもまだ昼飯のプログラムは帳消しにならずそのままになっていた。しか・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・しかし昨朝八丈島沖に相当な深層地震があったのでそれで帳消しになったのかもしれない。あの日は津田君の「出雲崎の女」が問題になっていて、喫茶室で同君からそのゆきさつの物語を聞いているうちに震り出したのであった。その津田君は今年はもう二科には居な・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・したがって普通の場合には功罪が帳消しになって余す所は棒だけになります。いくら藤村の羊羹でもおまるの中に入れてあると、少し答えます。そのおまるたると否とを問わず、むしゃむしゃ食うものに至っては非常稀有の羊羹好きでなければなりません。あれも学才・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・当時のフランスの諸事情はもとより強力な背景として説明されているのであるが、統一的な文化上の目的のためには、それぞれの思想的傾向の中にふくまれている本質上の相異まで全く帳消しにして仕舞われたかのように紹介された。 次で重要なことは、「行動・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫