・・・ 四、慾の深き事、常軌を逸したるところあり。玩具屋の前に立ちて、あれもいや、これもいや、それでは何がいいのだと問われて、空のお月様を指差す子供と相通うところあり。大慾は無慾にさも似たり。 五、我、ことごとに後悔す。天魔に魅いられたる・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・そのうち突然自分が今に四十になると云うことに気が附いて、あんな常軌を逸した決心をしたのではあるまいか。」これはちと穿鑿に過ぎた推論である。しかしこんなのが女にありそうな心理状態だと思うと、特別の面白みがある。 ピエエル・オオビュルナンは・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 何故、母上はあれ程、常軌を逸さずには居られなかったのであろう。あんなに賢明であられても、見る宇宙は小さいものであると思い、同時に、子にばかり縋って、その従順の裡にのみ生活の意義を認めて行かれる態度は、真心からお気の毒に思う。私ばかりで・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ けれども、それ等の、長い眼、大きな心から見れば確に例外、悲しむべき除外例とすべき一事件に対して、周囲が、何等かの意味に於て同様の不安に苦しめられている時、批評、噂する態度は、非常に常軌を逸して来る。 先ず、ト胸を打たれて忽ち冷静を・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・という迄に常軌を逸したのであった。 日本の外へ出て見ると、内にいた間には見えなかった日本が見えるのは当然である。漱石なども、ロンドンに行って後、非常に鮮明に、日本の文化的伝統とヨーロッパの文化的伝統との相異を、その社会的歴史の背景の前に・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ 人類の運命はやっと常軌に返る。 その先駆としての露国革命はきわめて拙く行った。しかし、露国の革命には五十年の歳月が必要だと言われているくらいだから、今の無知無恥な混乱も露国としてはやむを得ないかもしれぬ。同じ革命がドイツや英国に起・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫