・・・そこには、猟師の平作が住んでいました。「平作――早く出ろ、おおかみがきたぞ!」と、おじいさんはどなりました。 平作は、銃を持って、家の外に走り出ました。そして、おじいさんの振り向く方を見て、「あれか。」といって、黒いものをねらって打・・・ 小川未明 「おおかみをだましたおじいさん」
・・・三河国渥美郡福江村加藤平作……と読む声が続いて聞こえた。故郷のさまが今一度その眼前に浮かぶ。母の顔、妻の顔、欅で囲んだ大きな家屋、裏から続いた滑らかな磯、碧い海、なじみの漁夫の顔……。 二人は黙って立っている。その顔は蒼く暗い。おりおり・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・神戸家へ重々世話になるのは気の毒だと云うので、宇平一家はやはり遠い親戚に当る、添邸の山本平作方へ、八日の辰の刻過に避難した。 三右衛門が遺族は山本平作方の部屋を借りて、夢の中で夢を見るような心持になって、ぼんやりしている。未亡人は頭・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫