・・・その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。申の刻下りからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもなら・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・その婦人は三十何年間日本にいて、平安朝文学に関する造詣深く、平生日本人に対しては自由に雅語を駆使して応対したということである。しかし、その事はけっしてその婦人がよく日本を了解していたという証拠にはならぬではなかろうか。 詩は古典的で・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 奈良朝から平安朝、平安朝と来ては実に外美内醜の世であったから、魔法くさいことの行われるには最も適した時代であった。源氏物語は如何にまじないが一般的であったかを語っており、法力が尊いものであるかを語っている。この時代の人は大概現世祈祷を・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・それだのに、洋画の方には鎧武者や平安朝風景がない。これも不思議である。 帝展には少ないが二科会などには「胃病患者の夢」を模様化したようなヒアガル系統の絵がある。あれはむしろ日本画にした方が面白そうに思われるのに、まだそういう日本画を見な・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・猫は平安朝に朝鮮から舶来したと伝えられている。北海道のひぐまも虎と同様で、東北日本の陸地の生まれたとき津軽海峡はおそらく陸でつながっていたのではないかと思われるが、それがその後の地変のために切断してそれが潮流のために広く深く掘りえぐられた、・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ミケランジェロは最後の審判において彼の幻想を描いた。平安朝の大和画家は当時の風俗の忠実な描写をやった。しかもミケランジェロは今の洋画の祖先として似つかわしく、大和画家もまた今の日本画の祖先として似つかわしい。今洋画家が想像画を描くことは必ず・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・日本の独自の文化であると考えられる平安朝の文化が、鎌倉時代の武家文化に覆われていた後に、ふたたびここで蘇生して来ているからである。この見方はなかなか当たっていると思われる。室町時代の文化を何となく貶しめるのは、江戸幕府の政策に起因した一種の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫