・・・ 釈迦如来は勿論三界六道の教主、十方最勝、光明無礙、億々衆生平等引導の能化である。けれどもその何ものたるかは尼提の知っているところではない。ただ彼の知っているのはこの舎衛国の波斯匿王さえ如来の前には臣下のように礼拝すると言うことだけであ・・・ 芥川竜之介 「尼提」
・・・ただし、いったんこの土地を共有した以上は、かかる差別は消滅して、ともに平等の立場に立つのだということを覚悟してもらわねばなりません。 また私に対して負債をしておられる向きもあって、その高は相当の額に達しています。これは適当の方法をもって・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・具足円満、平等利益――南無妙……此経難持、若暫持、我即歓喜……一切天人皆応供養。――」 チーン。「ありがとう存じます。」「はいはい。」「御苦労様でございました。」「はい。」 と、袖に取った輪鉦形に肱をあげて、打傾きざ・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・俗曲と家畜を一緒にするのは変であるが二葉亭の趣味問題としていうと、俗曲の方には好き嫌いや註文があって、誰が何を語っても感服したのではなかったが、家畜の方は少しも択り好みがなく、どんな犬でも猫でも平等に愛していた。『浮雲』時代の日記に、「常に・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・人間の権利は平等であるから、生活の平等のみが文明の目的であり、同時に精神であるから。前進一路、人類の目的を達せんとするのが、即ち革命であり、また人類の飛躍ではあるのです。そして、同じく責任を感じ、志を共にするものゝみが、新しい世界を創生する・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・もう、一度昔のある時代に於けるような感激がこの地上に湧き来ったなら、其れで私達は、満足しなければならない。平等で、自由で、親睦で、虚偽というものが、生活の上になかったなら。 理想の社会というものは、決して虚偽の上には建設されない。純情な・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・しかるに、資本主義的文化によって、人類の富は、平等を欠き、平和は、失われた。そして生活の複雑になったことは、それだけ、幸福の内容を増したことにはならなかった。のみならず、いままで持っていたものまでなくしたのである。その上、多くの犠牲者を生じ・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・けれどもが、さし向かえば、些の尊敬をするわけでもない、自他平等、海藻のつくだ煮の品評に余念もありません。「戦争がないと生きている張り合いがない、ああツマラない、困った事だ、なんとか戦争を始めるくふうはないものかしら。」 加藤君が例の・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・との一念が執念くも細川の心に盤居まっていて彼はどうしてもこれを否むことが出来ない、然し梅子が平常何人に向ても平等に優しく何人に向ても特種の情態を示したことのないだけ、細川は十分この一念を信ずることが出来ぬ。梅子が泣いて見あげた眼の訴うるが如・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・されどたれあってこの老人を気に留める者もなく、老人もまた人が通ろうと犬が過ぎ行こうと一切おかまいなし、悠々行路の人、縁なくんば眼前千里、ただ静かな穏やかな青空がいつもいつも平等におおうているばかりである。 右の手を左の袂に入れてゴソゴソ・・・ 国木田独歩 「二老人」
出典:青空文庫