・・・ 数年前物故した細川風谷の親父の統計院幹事の細川広世が死んだ時、九段の坂上で偶然その葬列に邂逅わした。その頃はマダ合乗俥というものがあったが、沼南は夫人と共に一つ俥に同乗して葬列に加わっていた。一体合乗俥というはその頃の川柳や都々逸の無・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・彼女だけには特別の祝儀を張り込まねばならぬと宴会の幹事が思うくらいであった。祝儀はしかし、朋輩と山分けだから、随分と引き合わぬ勘定だが、それだけに朋輩の気受けはよかった。蝶子はん蝶子はんと奉られるので良い気になって、朋輩へ二円、三円と小銭を・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・倶楽部員は二郎の安全を祝してみな散じゆき、事務室に居残りしは幹事後藤のみとなりぬ。十蔵は受付の卓に倚りて煙草を吹かし、そのさまわがこの夜倶楽部に来し時と変わらず見えたり、ただ口元なる怪しき微笑のみ消えざるぞあやしき。 余は二郎とともに倶・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ 正木大尉は幹事室の方に見えた。先生と高瀬と一緒にその室へ行った時は、大尉は隅のところに大きな机を控えていた。高瀬は、大尉とは既に近づきに成っていた。「正木先生は大分漢書を集めて被入っしゃいます――法帖の好いのなども沢山持って被入っ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・或る婦人団体の幹事さんたちが狐の襟巻をして、貧民窟の視察に行って問題を起した事があったでしょう? 気を附けなければいけません。小説に依ると戸田さんは、着る着物さえ無くて綿のはみ出たドテラ一枚きりなのです。そうして家の畳は破れて、新聞紙を部屋・・・ 太宰治 「恥」
・・・此間委員会の事を聞きに往ったとき、好くも幹事に聞けなんと云って返したな。こん度逢ったら往来へ撮み出して遣る。往来で逢ったら刀を抜かなけりゃならないようにして遣る。」 左隣の謡曲はまだ済まない。右の耳には此脅迫の声が聞えるのである。僕は思・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・食卓で幹事の指名かなんかでテーブルスピーチがあった。正客の歌人の右翼にすわっていた芥川君が沈痛な顔をして立ち上がって、自分は何もここで述べるような感想を持ち合わさない。ただもししいて何か感じた事を述べよとならば、それは消化器の弱い自分にとっ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・もっとも二年生のとき牛頓祭という理科大学学生年中行事の幹事をさせられたので、それが頭にあったためかもしれない。また、短文の方は例えば「赤」とか「旅」とかいう題を出して、それにちなんだ十行か二十行くらいの文章を書かせるのであった。何という題で・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・あまりおもしろくもないあるいはむしろ不愉快な演説を我慢して聞くのはまだいいとしても、時によると幹事とか世話人から「指名」などと言って無理やりに何かしゃべる事を強要される。それでも頑強に応じないと、あとから立つ人の演説の中で槍玉にあげられる。・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・先の方やや太く手にて持つ処一尺四方ばかりの荒布にて坐蒲団のごとく拵えたる基三個本基および投者の位置に置くべき鉄板様の物一個ずつ、攫者の後方に張りて球を遮るべき網(高さ一間半、幅競技者十八人審判者一人、幹事一人等なり。○ベースボールの競技・・・ 正岡子規 「ベースボール」
出典:青空文庫