・・・そこには、鋭い無数の刺があって、外からの敵を守ってくれるであろうし、そのやわらかな若葉は卵が孵化して幼虫となったときの食物となるであろうと考えたからでした。 彼女は、子供に対する最後の義務を終えたのでありました。そして、子供らの将来の幸・・・ 小川未明 「冬のちょう」
・・・ たとえば、ばらの葉につくチューレンジ蜂の幼虫を駆除するに最も簡易で有効な方法を知りたいと思って、いろいろな本を物色してみたが、なるほど、多くの本にはこれに関する簡単な記載はあるが、書き方がたいていきわめて概念的で、本を読んだだけで、具・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・羽根が黒くて腰の黄色い小さな蜂が、柔らかい若芽の茎の中に卵を産みつけると、やがて茎の横腹が竪にはじけ破れて幼虫が生れ出る。これが若葉の縁に鈴成りに黒い頭を並べて、驚くべき食慾をもって瞬く間にあらゆる葉を食い尽さないではおかない。去年はこの翡・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・卵から出た幼虫は親の据え膳をしておいてくれた佳肴をむさぼり食うて生長する、充分飽食して眠っている間に幼虫の単純なからだに複雑な変化が起こって、今度目をさますともう一人前の蜂になっているというのである。 ある蜘蛛が、ある蛾の幼虫であるとこ・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・ 例えば昆虫の生涯を考えても、卵から低級な幼虫になってそれがさなぎになり成虫になるあの著しい変化は、昆虫の生涯における目立った律動のようなものではあるまいか。 人間の生涯には、少なくも母体を離れた後にこのように顕著な肉体的の変態があ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
出典:青空文庫