・・・合点しやがて本文通りなまじ同伴あるを邪魔と思うころは紛れもない下心、いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もう掌のうちと単騎馳せ向いたるがさて行義よくては成りがたいがこの辺の辻占淡路島通う千鳥の幾夜となく音ずるるにあなたのお手はと逆寄・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・事実、私は憤怒に燃えた。幾夜も寝苦しい思いをした。 小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。刺す。そうも思った。大悪党だと思った。そのうちに、ふとあなたの私に対するネルリのような、ひねこびた熱い強烈な愛情をずっと奥底に感じた・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・人恋わぬ昔は知らず、嫁ぎてより幾夜か経たる。赤き袖の主のランスロットを思う事は、御身のわれを思う如くなるべし。贈り物あらば、われも十日を、二十日を、帰るを、忘るべきに、罵しるは卑し」とアーサーは王妃の方を見て不審の顔付である。「美しき少・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・ この結婚は当時新聞が、百合子はアメリカにごろついていた洗濯屋と夫婦になったなどと書いたりしたことがあり、両親は勿論賛成せず、特に母はそのために眠られない幾夜かを過したのであった。母は、いくらか世間に名を知られるようになった娘をこの際洋・・・ 宮本百合子 「母」
出典:青空文庫