・・・つまりは底抜けに気の弱い人、決して私との見合いを軽々しく考えたのでも、またわざと遅刻したのでもないと、ずっとあとになってからだが、そう考えることにした。するといくらか心慰まったが、それにしても随分頼りない人だということには変りはない。全くそ・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・我と底抜けの生活から意味もなく翻弄されて、悲観煩悶なぞと言っている自分の憫れな姿も、省られた。 閉店同様のありさまで、惣治は青く窶れきった顔をしていた。そしてさっそくその品物を見せるため二階へ案内した。 周文、崋山、蕭伯、直入、木庵・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・お前さんだってそう底抜けに信用するわけにはいかないわ。兎に角お前さんがそんなことをしたにしても、あの人が構わなかっただけはたしかだわ。どうもそうらしいわ。それだからなんとなくお前さんはわたしに対して不平らしい様子をするのだろうと思うわ。前か・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・大痴という言葉がありますが、あなたは、それです。底抜けのところがあります。やはりあなたは有数の人物だと思いました。こんどは、もういいから、私にも誰にも、あんな長い手紙は書かないで下さい。閉口です。もう、わかりました。私は作品を書きます。書き・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ ただ、底抜けでない、筒抜けでは決してないという心強さが、じわじわと彼の心の核にまで滲みこみ、悠久な愛情が滾々と湧き出して、一杯になっていた苦しみを静かに押し流しながら、慎み深い魂全体に満ち溢れるのである。「何事もはあ真当なこった…・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫