・・・と、言って、朝から、晩まで子供や、大人がこの店頭へ買いに来ました。果して、絵を描いた蝋燭は、みんなに受けたのであります。 するとここに不思議な話がありました。この絵を描いた蝋燭を山の上のお宮にあげてその燃えさしを身に付けて、海に出ると、・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・といって、朝から晩まで、子供や、大人がこの店頭へ買いにきました。はたして、絵を描いたろうそくは、みんなに受けたのであります。 すると、ここに不思議な話がありました。この絵を描いたろうそくを山の上のお宮にあげて、その燃えさしを身につけて、・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・ ある日、男が箱車を引いて菓子屋の店頭にやってきました。そして、飴チョコを三十ばかり、ほかのお菓子といっしょに箱車の中に収めました。 天使は、また、これからどこへかゆくのだと思いました。いったい、どこへゆくのだろう?箱車の中にはいっ・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
・・・それがどうしたわけかその店頭の周囲だけが妙に暗いのだ。もともと片方は暗い二条通に接している街角になっているので、暗いのは当然であったが、その隣家が寺町通にある家にもかかわらず暗かったのが瞭然しない。しかしその家が暗くなかったら、あんなにも私・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・今、店頭で売っているものとは木質からして異う。 しかし、重いだけ幼い藤二には廻し難かった。彼は、小半日も上り框の板の上でひねっていたが、どうもうまく行かない。「お母あ、独楽の緒を買うて。」藤二は母にせびった。「お父うにきいてみイ・・・ 黒島伝治 「二銭銅貨」
・・・高瀬の住む町からもさ程離れていないところで、細い坂道を一つ上れば体操教師の家の鍛冶屋の店頭へ出られる。高い白壁の蔵が並んだ石垣の下に接して、竹薮や水の流に取囲かれた位置にある。田圃に近いだけに、湿気深い。「お早う」 と高瀬は声を掛け・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ふと、ある店頭のところで、買物している丸髷姿の婦人を見掛けた。 大塚さんは心に叫ぼうとしたほど、その婦人を見て驚いた。三年ほど前に別れた彼の妻だ。 避ける間隙も無かった。彼女は以前の夫の方を振向いた。大塚さんはハッと思って、見た・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・諸方の店頭には立て素見している人々もある。こういう向の雑書を猟ることは、尤も、相川の目的ではなかったが、ある店の前に立って見渡しているうちに、不図眼に付いたものがあった。何気なく取上げて、日に晒された表紙の塵埃を払って見る。紛も無い彼自身の・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・どこかで見たことのある顔と思っていたのであるが、これはたしかに、えはがきやの店頭で見たプーシュキンの顔なのであった。みずみずしい眉のうえに、老いつかれた深い皺が幾きれも刻まれてあったあのプーシュキンの死面なのである。 僕もしたたかに酔っ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・私はあなたの文章を本屋の店頭で読み、たいへん不愉快であった。これでみると、まるであなたひとりで芥川賞をきめたように思われます。これは、あなたの文章ではない。きっと誰かに書かされた文章にちがいない。しかもあなたはそれをあらわに見せつけようと努・・・ 太宰治 「川端康成へ」
出典:青空文庫