私は、蔵書というものを持ちませんが、新聞や、雑誌の広告に注意して、最新の出版でこれは読んで見たいなと思うものがあると求めるのがありますが、旧いものは、これは何々文庫というような廉価本で用を達しています。読んでしまえば、それでいゝような・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・この思い切った宣伝が廉価出版の気勢を添えて、最初の計画ではせいぜい二三万のものだろうと言われていたのが、いよいよ蓋をあけて見るとその十倍もの意外に多数な読者がつくことになった。 思いもよらない収入のある話と私が言ったのは、この大量生産の・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ボスニア産のプリュウンであろうが、機関車であろうが、レンブラントの名画であろうが、それを大金で買って、気に入らないから、直ぐに廉価に売るには、何の差支もない。これは立派な売買である。仲買にたっぷり握らせて、自分も現金を融通する。仲買は公民権・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・それでこの機会を利用して専売局に敬意を表すると同時に、当事者がますます煙草に関する科学的芸術的ないし経済的研究を進められて、今よりも一層優良な煙草を一層廉価で供給されんことを希望する次第である。・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・この次の時代をつくるわれわれの子孫といえども、果してよく前の世のわれわれのように廉価を以て山海の美味に飽くことができるだろうか。昭和廿二年十月 ○ 松杉椿のような冬樹が林をなした小高い岡の麓に、葛飾という京・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・人生徒事の多きが中に、避姙と読書との二事は、飲酒と喫烟とに比して頗廉価である。避姙は宛ら選挙権の放棄と同じようなもので、法律はこれを個人の意志に任せている。 選挙にはむずかしい規定がある。一たびこれに触れると、忽縲紲の辱を受けねばならな・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・是れ現代の家庭に在っては台所で使う鍋釜のたぐいも悉く廉価なる粗製品となり、破損すれば直様古きを棄てて新しきを購うようになった為めであろう。何物にかぎらず多年使い馴れた器物を愛惜して、幾度となく之を修繕しつつ使用していたような醇朴な風習が今は・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・智能と資本とを縦横に駆使して、イギリスの良品高価に対する良品廉価生産・高賃銀低コストを目ざす科学主義工業という呼び名が、これらの人々によって、資本主義工業の弱点を補強したものとして提唱されつつあるのである。 大河内氏の著書は、鶏小舎を改・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・国立出版所は、五カペイキや二十カペイキの廉価版を作って、それ等を売り出した。『集団農場・暁』十五カペイキ。集団農場・暁が、つい附近の富農の多い村と対抗しつつどんな困難のうちに組織されたか、どんな人間が、どんなやり方で――うすのろの羊飼ワ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・国立出版所はロシア及びヨーロッパ各国文学古典の価値あるものから現代の作品までを廉価版にして出した。詩の朗読会、作品朗読会はモスクワなどでは一週間に一度ぐらいずつの割合できっとどこかのクラブで催されている。 職場の壁新聞・工場新聞は、三十・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫