・・・今でこそ樟脳臭いお殿様の溜の間たる華族会館に相応わしい古風な建造物であるが、当時は鹿鳴館といえば倫敦巴黎の燦爛たる新文明の栄華を複現した玉の台であって、鹿鳴館の名は西欧文化の象徴として歌われたもんだ。 当時の欧化熱の中心地は永田町で、こ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・汀から岸の頂まで斜めに渡したコンクリートの細長い建造物も何の目的とも私には分らないだけにさらにそういう感じを助長した。 ずっと裏の松林の斜面を登って行くと、思いがけなく道路に出た。そこに名高い花月園というものの入口があった。どんなにか美・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そこから出発して宗達は賢くも、樹木、流木、岩や山などの自然又は橋、船、車、家屋というような建造物を先ず様式化し、生きている人間が示す感興つきない様々の姿態はそのままの血のぬくみをもって、簡明にされた背景の前に浮きたたせたと思える。 そう・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・朝夕の霜で末枯れはじめたいら草の小径をのぼってゆくと、茶色の石を脚の高さ二米ばかりの巨大な横長テーブルのような形に支えた建造物がある。近づいてこの厚い覆いを見れば、これはそれなりに記念碑であり又墓でもあった。石の屋根の下にいら草の繁みをわけ・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・高原の頂に国際観光ホテル建造中です。 この川が流れて千曲川に合します。この手前にやや濃い山の左手に長野がある。更に左手のこのハガキからはずれたところに雪をいただいた日本アルプスが見えます。落日を受けて美しいのはこの遠くかすんだ山々です。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の桂の離宮の美しさの描写にしろ、外国人であるタウトはそれぞれの手づるによって国の美の宝石を夥しく見る機会を与えられたが、この国のものが果して何人、礼服着用とたやすくない紹介のいるその建造物の美に直接触れているだろうか。絵画についても、彫刻に・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ 崇福寺は由緒も深く、建築も特別保護建造物になって居るが、私共の趣味ではよさを直感されなかった。京都の黄檗山万福寺と同様、大雄宝殿其他の建物を甃の廻廊で接続させてあるのだが、山端で平地の奥行きが不足な故か、構造の上でせせこましさがある。・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・歴史的に古く、特別保護建造物となっているのだが、私共は大して心を打たれなかった。後に迫って山を負っているため、陰湿だ。それに昔の支那――明人の建築には思いがけず木材など細いのが使用されてい、こせつき、複雑で、悠暢としたところがない。建物と建・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・米価はひどい騰貴で商人は肥え、庶人は困窮し、しかも日光の陽明門が気魄の欠けた巧緻さで建造され、絵画でも探幽、山楽、光悦、宗達等の色彩絢爛なものがよろこばれている。よるべない下級武士の二六時にのしかかって来る生活のそういう矛盾が、宗房のような・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・が、生活の中からせり出して来る生々しい建造物の規模はもっていない。 散文家として比較すれば、鴎外の方が漱石より雄勁である。漱石のよわさは、しかし彼の稟性の低さに由来するものではない。既に自然主義にはおさまれず、さりとて自身の伝統によって・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
出典:青空文庫