・・・要旨を掻摘むと、およそ弁論の雄というは無用の饒舌を弄する謂ではない、鴎外は無用の雑談冗弁をこそ好まないが、かつてザクセンの建築学会で日本家屋論を講演した事がある、邦人にして独逸語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢とすというような論鋒・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・往時弁論桿闔の人に似ざるなり。去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟に頒つ。主意は泰西の理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩艶絶。これを一読するに、温乎として・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・ そう云えば近頃世上で大分もてはやされる色々の社会的の問題に関する弁論や主張や宣伝中の一、二パーセント、あるいは二、三十パーセント、事によるともっと意外に大きいパーセントがやはり一種のシッタシズムの産物ではあるまいかという疑いが起った。・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ 次は当然法廷の場である、憎まれ役の検事になるべく意地のわるい弁論をさせて、被告と見物に気をもませ、被告に不利な証人だけを選りぬいて登場させる、弁護士にはなるべく口が利けないようにするが、但し後の伏線になるようにアパートの時計が二十分進・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・にもかかわらず、今日までこういう、即ち弁論部の御招待に預って、諸君の前に立った事は御座いませんでした。尤も御依頼も御座いませんでした。また遣る気もありませんでした。ただ今私を御紹介下さった速水君は知人であります。昔は御弟子で今は友達――いや・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・かえりみて学者の領分を見れば、学校教授の事あり、読書著述の事あり、新聞紙の事あり、弁論演説の事あり。これらの諸件、よく功を奏して一般の繁盛をいたせば、これを名づけて文明の進歩と称す。 一国の文明は、政府の政と人民の政と両ながらその宜を得・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・その利害、もとより明白にして、喋々弁論するにも及ばざることなり。 ある人の考に、日本の文字を用うれば、人の姓名を記し事柄を書くには、もとより便利なれども、数字にいたっては、二五八三と記して二千五百八十三と解すは、これまた人民社会に不通用・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・以て東海に独立したるものにして、立国根本の道徳なくして叶うべきや、耶蘇の教義果たして美にして立国に要用なりとならば、我が日本国には耶蘇の名のほかに無名の耶蘇教民あることならんなどと、百方に言葉を尽して弁論すれば、また自ずからその意を解して釈・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ この点に連関して、午後の法廷で林弁護人の行った弁論の中に、特別注目をひく箇所があった。「さる十月二十七日に石川検事が東京地検の三階の会議室で、検察事務官に対する刑事訴訟法の講義において次の如き三鷹事件に対する検事の方針がのべられている・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・新聞のつたえるところによると青柳弁護士が、あのさわぎを誘発したのは丸の内警察署の誰某と名前をあげて弁論している。ひとを一定の罪にひっかけるために挑発し、行動したものは、それが権力の使用人であれば罪はないというものだろうか。罪の原因をうみ出し・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
出典:青空文庫