・・・ところがその後になって聞いてみると、その小説が載ってから完結になる迄に前後十九通、「あれでは困る、新聞が減る、どうか引き下げてくれ」という交渉が来たということである。これは巌谷さんの所へ言って来たのであるが、先生は、泉も始めて書くのにそれで・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・それで、人間の頭脳の最高水準を次第に引き下げて、賢い人間やえらい人間をなくしてしまって、四海兄弟みんな凡庸な人間ばかりになったというユートピアを夢みる人たちには徹底的な災難防止が何よりの急務であろう。ただそれに対して一つの心配することは、最・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・故に今、婦人の地位を低しというも、男子の地位を引下げて併行するに至らしむれば、男女の権力平等なりというべし。あるいは婦人は今のままにして、男子の地位をして一層の下に就かしむれば、女権特に高しというべし。これ即ち我輩が独り男子を目的にして論鋒・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 篤介は徐ろに帽子を耳の上まで引下げ、腕組みをし、重々しく転がって行った。悌が、横になると思うや否や気違いのようにその後を追っかけた。「ウワーイ」「ワーイ」「ウワーイ」 波は細かい砂を打ってその歓声に合わせるようさしては・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・トルーマンが政策として、平和のための強国間の協力、アメリカの公務員法案であるタフト・ハートレー法の撤廃、物価の引下げ、人種的差別の撤廃その他を主張して当選したとき、日本では全人民の生活を破壊したさきの侵略戦争共同謀議者二十五名の判決公判が開・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 着物だの飾り物に、ひどい愛着を持って居るお君は、見も知らない人々が、隅から隅まで隆とした装で居るのを見るとたまらなくうらやましくなって、例えそれが、正銘まがい無しの物でも、自分の手の届くところまで、引き下げたものにして考えて居なければ気が・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・トルーマンには民主党のタフト・ハートレー法の撤廃、人種差別の撤廃、物価引き下げ、強国間の協力推進という、明白な綱領があった。それらを要求するアメリカの大衆の意志にこたえる決意を明らかにしたからこそ、その人々の意志に支えられてトルーマンは当選・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・そして、鳥打帽の庇をふてくされた手つきでぐいと引き下げて、地べたへ唾をはいた。「ヘン! うまいようなこと言ってら! その手はくわないよ。俺あ党員じゃねえんだからね。正直に、手前の背骨を痛くして耕してた百姓から牛までとっちまって、日傭いに・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・あらゆる形で大衆課税がとりたてられ、たとえ所得税の税率がいくらか引き下げられたとしても、汽車賃の二倍半までの増額、公定価格の七割ほどの引上げ、通信料の四倍、煙草の二割から八割の値上げは、あらゆる家計を破綻させている。とくに本年度の悪質大衆課・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・の発明も、その傍観性、非動性、負かされづめで結局勝ったのだという主観的な独善性等に引き下げられて、本質には春山行夫氏が評した次の言葉がふさわしい種類の身ぶりであった。「横光の自我は現実を截断する力がないから未完成である」と。普通の言葉でこれ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫