・・・戯言とまじめと工合よく取り交ぜて人を話に引き入れる。政さんはおはまの顔を時々見てはおとよさんをほめる。「女の前でよその女をほめるのは、ちっと失敬なわけだけど、えいやねい、おはまさん、おはまさんはおとよさんびいきだからねい」 おはまは・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・それらを引き入れることが出来る望みがある。失敗はあらかじめ覚悟の上でつれて帰りたいから、それに必要な百五十円ばかりを一時立て換えてもらいたいと頼んだ。その全体において、さきに劇場にいる友人に紹介した時よりも熱がさめていたので、調子が冷静であ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・悪魔、悪魔には違いないがしかしその時自分を悪魔とも思わないしまたみイちャんを魔道に引き入れるとも思わなかった。この間の消息を知ってる者は神様と我々二人ばかりだ。人間世界にありうちの卑しい考は少しもなかったのだから罪はないような者であるが、そ・・・ 正岡子規 「墓」
出典:青空文庫