・・・「私も牧野さんに頼まれたから、一度は引き受けて見たようなものの、万一ばれた日にゃ大事だと、無事に神戸へ上がるまでにゃ、随分これでも気を揉みましたぜ。」「へん、そう云う危い橋なら、渡りつけているだろうに、――」「冗談云っちゃいけな・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・「手前の店ではまだ一度も、仙人なぞの口入れは引き受けた事はありませんから、どうかほかへ御出でなすって下さい。」 すると権助は不服そうに、千草の股引の膝をすすめながら、こんな理窟を云い出しました。「それはちと話が違うでしょう。御前・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・ひとつおまえさんあれを一手に引き受けて遺作展覧会をやる気はありませんか。そうしたら、九頭竜の野郎、それは耳よりなお話ですから、私もひとつ損得を捨てて乗らないものでもありませんが、それほど先生がたがおほめになるもんなら、展覧会の案内書に先生が・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・足許を見て買倒した、十倍百倍の儲が惜さに、貉が勝手なことを吐く。引受けたり平吉が。 で、この平さんが、古本屋の店へ居直って、そして買戻してくれた錦絵である。 が、その後、折を見て、父が在世の頃も、その話が出たし、織次も後に東京から音・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・「若い衆、爺が引受けた!」 この声とともに、船子は礑と僵れぬ。 一艘の厄介船と、八人の厄介船頭と、二十余人の厄介客とは、この一個の厄介物の手に因りて扶けられつつ、半時間の後その命を拾いしなり。この老いて盲なる活大権現は何者ぞ。渠・・・ 泉鏡花 「取舵」
・・・「なアに、こうなったら、私が引き受けてやりまさア」「済まないこッてございますけれど――吉弥が悪いのだ、向うをおこらさないで、そッとしておけばいいのに」「向うからほじくり出すのだから、しようがない、わ」「もう、出来たことは何と・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ これをきいて、猟師は、よろこんで引き受けました。 村から、西にかけて、高い山々が重なり合っていました。昔から、その山にはくまや、おおかみが棲んでいたのであります。 猟師は、仕度をして、鉄砲をかついで山へはいってゆきました。霧の・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
・・・いろいろ窮状を談して執念く頼んでみたが、旅の者ではあり、なおさら身元の引受人がなくてはときっぱり断られて、手代や小僧がジロジロ訝しそうに見送る冷たい衆目の中を、私は赤い顔をして出た。もう一軒頼んでみたが、やっぱり同じことであった。いったいこ・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・「それは私が引き受ける」と新造が横から引き取って、「一体その娘の死んだ親父というのが恐ろしい道楽者で自分一代にかなりの身上を奇麗に飲み潰してしまって、後には借金こそなかったが、随分みじめな中をお母と二人きりで、少さい時からなかなか苦労を・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・印刷は無論ただ同然で引き受けてやったし、記事もおれが昔取った杵柄で書いてやった。なお「蘆のめばえ咲分娘」と題して、船場娘の美人投票を募集するなど、変なことを考えついたのも、おれだった。これは随分当って、新聞は飛ぶように売れ、有料広告主もだん・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
出典:青空文庫