・・・ 出雲風土記には、神様が陸地の一片を綱でもそろもそろと引き寄せる話がある。ウェーゲナーの大陸移動説では大陸と大陸、また大陸と島嶼との距離は恒同でなく長い年月の間にはかなり変化するものと考えられる。それで、この国曳きの神話でも、単に無稽な・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・それよりはむしろ、半ば黒焦げになった一握りの麦粒のほうがはるかに強く人の心を遠い昔の恐ろしい現実に引き寄せるように思われた。 火山の名をつけた旗亭で昼飯を食った。卓上に出て来た葡萄酒の名もやはり同じ名であった。少しはなれた食卓にただ一人・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・それから右手をそっちへ突き出して左手でその右手の手首をつかみこっちへ引き寄せるようにしました。すると奇体なことは木樵はみちを歩いていると思いながらだんだん谷地の中に踏み込んで来るようでした。それからびっくりしたように足が早くなり顔も青ざめて・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
出典:青空文庫