・・・最早死の沈黙に鎖されて、死の寂しさをあたりへ漲らしている、を被った、不動の白い形から、驚怖のために、のひろがった我目を引き離すことが出来ない。 フレンチは帰る途中で何物をも見ない。何物をも解せない。丁度活人形のように、器械的に動いている・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・それは二枚の平面板の間に粘性あるいは糊状の液体を薄層としてはさんでおいて、急にその二枚の板を引き離すときにできるきれいな模様の中のあるものである。この模様の分岐のしかたにも一種の週期性がある。しかしこの場合においてもこの週期性の決定要素はな・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・その代りその権利と引き離す事のできない義務も尽さなければ、教師の職を勤め終せる訳に行きますまい。 金力についても同じ事であります。私の考によると、責任を解しない金力家は、世の中にあってならないものなのです。その訳を一口にお話しするとこう・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・日本的なものということが、それだけ抽象化され、今日の大衆生活の現実との関係では、現実のありようから着実な観察の眼を引離す方向でいわれはじめた場合に、無条件でそれに賛同するプロレタリア作家もなかろうではないか。プロレタリア文学が置かれている今・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
出典:青空文庫