・・・を説くために、我々に向って一の虚偽を強要していることである。相矛盾せる両傾向の不思議なる五年間の共棲を我々に理解させるために、そこに論者が自分勝手に一つの動機を捏造していることである。すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・語学校の教授時代、学生を引率して修学旅行をした旅店の或る一夜、監督の各教師が学生に強要されて隠し芸を迫られた時、二葉亭は手拭を姉さん被りにして箒を抱え、俯向き加減に白い眼を剥きつつ、「処、青山百人町の、鈴木主水というお侍いさんは……」と瞽女・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・たとえば、失業者及びこれと近い生活をする者をして、日常の必要品たる、家賃を始め、ガス、水道、電気等の料金に至る迄、極めて規則的に強要しつつあるのは、解釈によっては、暴力の行使という他はありません。 さらに、インフレーションにより、当然招・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・潭水湖の電気事業工事のために、一日十五六時間働かして僅かに七銭か八銭しか賃銀を与えず、蕃人に労働を強要したのだ。そしてその電気事業のために、蕃人の家屋や耕作地を没収しようとしたのだ。蕃人の生活は極端に脅かされた。そこで、 蕃人たちは昨年十月・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・でも、出来ても出来なくても無理やりに弁償を強要したかった。不服でむか/\してやりきれなかった。そういう激しい感情を林へ引いて行かれる橇を見て自ら慰めるよりほか、彼等には道がなかった。彼等と一緒に兵タイに取られ、入営の小豆飯を食い、二年兵にな・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・船橋に移ってからは町の医院に行き、自分の不眠と中毒症状を訴えて、その薬品を強要した。のちには、その気の弱い町医者に無理矢理、証明書を書かせて、町の薬屋から直接に薬品を購入した。気が附くと、私は陰惨な中毒患者になっていた。たちまち、金につまっ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・医師に強要して、モルヒネを用う。 ひるさがり眼がさめて、青葉のひかり、心もとなく、かなしかった。丈夫になろうと思いました。 月 日。 恥かしくて恥かしくてたまらぬことの、そのまんまんなかを、家人は、むぞうさに、言い刺した。飛・・・ 太宰治 「悶悶日記」
・・・すなわち理法によって他の承諾を強要する。民族的反感からは信用したくない人でも、論理の前には屈伏しなければならない事を知っているから。」こう云ったニーチェのにがにがしい言葉が今更に強く吾々の耳に響くように思われる。 彼の学校成績はあまりよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・演習なり実習なりである講義を理解する下地の出来たものは自由に入れてやって、普通学の素養などは強要しない。ことに彼の経験では有為な徹底的な人間は往々一方に偏する傾向があるというのである。従って中等学校では生徒がある特殊な専門に入るだけの素養が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・この場合には自分のわずかな時間と労力の節約のために他の同乗者のおのおのから数十秒ずつの時間を強要し消費することになるのである。これも遠慮したほうがよさそうに思われる。 しかし、昇降機のほうから言えば何階で止まるも止まらぬのもたいした動力・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
出典:青空文庫